通関士試験の「難易度」について2024年度の試験結果をもとに考察してみました。
目次
科目免除と合格率の関係
まずは、今年度の合格率とその内訳について以下の表をご覧ください。
上図は、税関HPで公開されている今年度(第58回)試験の結果です。
上段の全科目受験者の合格率は11.2%です。
前年度と比べて11.8%の減となっています。
昨年度と比べて合格率が半減しています。
全科目受験者とは、「通関実務」「関税法等」「通関業法」の3科目全てを受験された方のことを指します。
次に、中段にある2科目受験者のデータですが、
今年度の2科目受験者の合格率は10.4%です。
上段の全科目受験者と大差のない結果となっています。
2科目受験者とは、科目免除により「通関実務」が免除され
「関税法等」と「通関業法」の2科目だけを受験された方のことを指します。
そして、下段にある1科目受験者のデータですが、
合格率は、61.3%となっています。
1科目受験者とは、科目免除により「通関実務」と「関税法等」が免除され
「通関業法」のみを受験された方のことを指します。
最下段にある合計の欄は、受験者全体のデータとなります。
今年度の全体の合格率は、12.4%となっています。
1科目受験者の合格率が他と比べて高いのは、「通関実務」および「関税法等」が免除されているからです。
つまり、通関士試験の核心部(最難関部分)は「通関実務」および「関税法等」だということです。
特に、「通関実務」は対策が非常に難しい科目と言えます。
なぜなら、通関士試験の実務問題は、実際に現場で直面し、税率等を誤って申告してしまうような複雑な事例を含んでいるからです。
また、「通関実務」の試験対策としては、筆記用具と電卓を机に置いて取り組む時間が確保する必要があります。
通関業法・関税法などは、通勤時間等の隙間時間を利用しての対策が可能ですが、「通関実務」に関しては、そういった対策がほぼ不可能といっても過言ではありません。
以上のように「通関実務」と「関税法等」および「通関業法」の試験は性質が異なるということで、試験対策もまったく質が異なるものであるということです。
簡単に言うと、「歴史の試験対策」と「数学の試験対策」との違いのようなものです。
この質の違いは、仕事や家事、育児に追われる社会人にとっては特に重要なことになってきます。
最難関科目は「通関実務」であるということを認識することが、通関士試験合格においての鍵となることを念頭に置いて試験対策をするようにしてください。
このことについて詳しくは、以下の記事をお読みください。
ちなみに、「2.合格基準」を見てみると関税法等の合格基準が、「満点の60%以上」から「満点の55%」に引き下げられています。
合格基準はその年の出題の難易度が高く、例年と比べてあまりにも解答率が低い場合には引き下げられる場合があります。
今年は「関税法等」において、合格基準の引き下げがありました。
試験問題の難易度自体は、「関税法等」以外は、「普通」だったということです。
詳しく見てみると、以下の2者の間には、特筆すべき合格率の違いはないことがわかります。
① 全科目受験者 (11.2%) : 文字通り、全科目受験された方
② 2科目受験者 (10.4%): 「通関実務」が免除され、「関税法等」および「通関業法」の2科目のみを受験された方
これに対して、1科目受験者の合格率は、例年とほぼ同様の結果となりました。
③ 1科目受験者(61.3%) : 「通関実務」および「関税法等」の科目が免除されており、「通関業法」のみを受験された方
上記のことから、「通関業法」が最も簡単であり、対策がしやすいと言えます。
これに対して、「関税法等」と「通関実務」の難易度は例年高いということが言えます。
ただし、「通関実務」の科目を免除されている②の2科目受験者は、「通関実務」の対策に時間を割かなくてもよいにも関わらず、「関税法等」の難易度が上がったことに伴って、合格を逃した方が多かったと言えます。
「関税法等」については、ボリュームが大きく、ひっかけ問題などがあり、奇問が出題される年もありますが、法令を確実に読み込んで、理解しておけば回答できます。もちろん、それなりに対策をきちんとしておく必要がありますが、「通関実務」の試験対策と違って時間の確保は容易であると言えます。
にも関わらず、
なぜ最難関科目である「通関実務」を免除されている2科目受験者の合格率は、全科目を受験されている方と変わらないのでしょうか。
「通関業法」と「関税法等」といったコンプライアンス(法令遵守)に関わる最も重要な学習をしていないのでしょうか。
これらのことについて私は、科目免除と業界の特性が関係していると考えています。
まずは、業界の特性についてですが、
通関業務は、税関が実施している講習に参加すれば、通関士試験に合格していなくても携わることが可能です。
このため通関士試験に合格していなくても通関業務を卒なくこなすプロがたくさんいるというのが、この業界の特性と言えます。
次に、科目免除についてですが、
また、上記のような通関士試験に合格せずとも通関業務をこなすプロがいる状況の中で
『5年間通関に関わる仕事をしていれば、最難関科目である「通関実務」を免除する』
さらに、
『15年間通関に関わる仕事をしていれば上述の「関税法等」も免除する』
といった制度になっています。
科目免除を念頭に置いて実務に専念し、職場に定着してもらえれば、それで良いと考えている企業もあるかもしれません。
激務に追われながら、通関士試験も必死で取り組んだ結果、バーンアウトして辞職されるよりましだと考える企業もあるかもしれません。
上記のようなことから、科目免除を受けても合格率が低迷していると言えるのではないでしょうか。
しかし、そんな科目免除がいつまでも存在するとは限りません。
あらゆる制度や法令はその時々の状況に応じて変化していくものです。
通関業務に関連する業界への就職や転職を目指して通関士試験に挑んでおられる方には関係のないことかもしれませんが、
全員がそうであるとは言えませんが、通関業務に従事しながら、通関士試験を受験している方々が、「通関業法」と「関税法等」といったコンプライアンス(法令遵守)に関わる最も重要な学習をしていないように見えるこの試験結果は「問題がある」と言わざるを得ないように感じるのは私だけでしょうか。
上述のことに、ご興味のある方は以下の考察記事をご覧ください。
まとめ
結局、試験結果について分析して言えることは、以下のようなことです。
「関税法等」がボリュームも多く、ひっかけ問題もあり、最も難易度が高い科目のように見えるかもしれません。
しかし、通関士試験で攻略が難しく難易度が最も高い科目は「通関実務」です。
そのため、「通関実務」の対策時間をいかに捻出できるかが合格する上で非常に重要となります。
関税法等の法令科目の試験対策時間は工夫次第で対策時間を大きく伸ばすことが可能ですが、通関実務の対策時間を捻出することは非常に難しいということが、勉強をしていく過程で実感されることと思います。
つまり、受験すると決めたならば、いち早く「通関実務」の問題に取り組むことが重要です。
そして、科目免除については以下のようなことが言えるでしょう。
まず、科目免除など当てにしていつまでも合格できずにいると、時間と経費を無駄にすることになります。
さらに、そのうち科目免除という制度がなくなって、結局は試験勉強に励まなければならない時が来るかもしれません。
したがって、科目免除のことは頭の外に追いやって、いち早く通関士試験に合格できるように勉強に集中すべきだと思います。
全科目(3科目)受験で合格することは合格率から見ても明らかなように、決して容易であるとは言えません。
しかし、もし合格できれば周囲の方々(同僚・上司・税関職員)は、あなたの情報分析能力・情報処理能力が高いと評価してくれるはずです。
上述のことを念頭に置いて勉強に取り組んでいきましょう。
合格していれば、メリットもたくさんあるということを意識して、短期間で集中して取り組むようにしましょう。
以下の記事を読んでそのメリットについて確認してみてください。
ちなみに独学で一発合格するためには、
セオリーを知り、自分に合った勉強方法で臨むことが最も重要です。
セオリーをきちんと踏まえて、独学で短期一発合格できるための学習をスタートするに当たって、以下の記事が参考になればと思います。