前回の記事では、セオリーを知らなければ、通関士試験の難易度をいたずらに上げてしまい、合格できなくなる可能性があることについて書きました。
では、実際にセオリーを知らないで受験するとどのような結果となるのか、具体例(同僚の話)も踏まえながら書いてみます。
また、どのようにすれば、自分に合った最適な学習スタイルを習得できるかについて、またもや山岳登山に例えて説明してみたいと思います。
(山岳登山など一瞬の判断ミスが命取りとなるような世界の話はいろいろな意味で参考・教訓となります。ビジネスの世界でも山岳登山から部下に危機管理能力を学ばせるという会社もあるほどです。)
目次
1.能力や経験があっても知識不足で遭難する
2.セオリーを無視すると遭難する
3.通関士試験は低山だと舐めてかかる
4.通関士試験不合格で失うもの
5.遭難しないためには
6.それぞれにあったスタイルを選ぶ必要がある
1.能力や経験があっても知識不足で遭難する
同僚が、通関士試験に挑みましたが不合格となりました。
その同僚は「関税法等」と「通関業法」は
自己採点で6割以上取れていたそうですが、
「通関実務」を落としてしまったそうです。
なぜ、そのようになったか考えてみましたが、
「問題集や過去問には早い段階から、
できるだけ多く当たっておかなければならない」
「特に通関実務に関しては、
できるだけ早い段階からとりかからねばならない」
といった
「セオリー」を無視した結果であると考えざるを得ませんでした。
2.セオリーを無視すると遭難する
その同僚は法学部卒で、法律科目である「通関業法」と「関税法等」の2科目は
低いハードルだったのかもしれません。
しかし、「通関実務」が原因で不合格になってしまったのです。
通関士試験に挑む上で有利に働くであろう基礎体力のような法律的知識を持っていても、不合格になることがあるのです。
当時、私はその同僚の不合格を聞いて、知識と体力がある山岳アスリートが、遭難したように感じ違和感を覚えました。
しかし、それと同時に、8,000メートル級の山々を無酸素で登頂してきたプロ登山家が、日本の北アルプスで遭難し、レスキューヘリに助けを求めたという出来事が思い浮かびました。
(3,000メートル級の
北アルプスの難易度が低いということでは決してありません)
このプロ登山家は、2つの低気圧が重なる爆弾低気圧に見舞われ、「気象遭難」という形で救助されました。
2つの低気圧を過小評価し、深刻な状況にはならないと判断して登り始めてしまったそうです。
いわゆる「正常性バイアス」が働いたのだと、ご自分で振り返って分析されています。
「正常性バイアス」とは、「自分は大丈夫」とか「これまでは問題なかったのだから大丈夫だろう」と今そこにある危機を過小評価して、なすべき行動が取れなくなることです。
多くの自然災害や火事の時に「正常性バイアス」が働いて最悪の事態となる場合があることは有名な話です。
つまり、誰であろうと「セオリー」を無視すれば、確実に遭難すると言うことです。
後述の同僚の会話の中で、「通関実務」に割く時間が彼にはなかったことが分かります。
そして、「通関実務」の問題を何問か解いて「できるだろう」と判断していたようです。
この時の同僚にも、「正常性バイアス」が働いていたのかもしれません。
3.通関士試験は低山だと舐めてかかると危ない
通関士試験というものは、司法書士や税理士などと比べると「低山」に見えるかもしれませんが、私はそうは思いません。
法律用語や貿易実務用語といった専門用語に対して適切に対応する必要があるということに加えて、
「通関実務」という初見殺しとも言える試験科目にも挑まなければならないからです。
6ヶ月程度の勉強期間で合格できるような「低山」などと舐めてかかると痛い目にあいます。
登山と同様に、セオリーを知らなければ、遭難必至(不合格必至)と言っても過言ではないでしょう。
4.通関士試験不合格で失うもの
通関士試験で不合格になっても山岳遭難とは違って、命を落とすことはありません。また、血税を投じたレスキュー隊が出動する訳でもなく、民間の捜索隊が組織されて費用を請求されることもありません。
通関士試験は、山岳遭難とは違って、不合格になっても、失うものは何もないのでしょうか?
時間やお金、信頼や自信など失うものはあると私は思います。
再度試験を受けるとなると、勉強を継続する必要がある上に、教材は次年度のものを購入し、改正点がないか確認する必要があります。
また、場合によっては、他者からの信頼を失う可能性があるかもしれません。
自分で自分を信じられなくなって翌年が、不安にさいなまれる1年にならないとは言い切れません。
例えば、不合格について他人から何らかの評価を受けるとしたらどうでしょうか?
山岳遭難では幸いに発見されても、酷な事を言われることもあるようです。
「無謀」
「無計画」
「準備不足」
「舐めていたのか」などなど
通関士試験で不合格になっても、合格率や難易度から考えて、貴重な人材に対して酷なことを言う方は稀だと思います。
ただ、こんな場合もあります。
前述の同僚が1年目に不合格になった際に、上司から自己採点したか聞かれ、同僚はこのように答えました。
『「関税法等」と「通関業法」の2科目は6割を上回っていました。どうも「通関実務」を勉強不足で落としてしまったようです』
その答えを聞いた上司は以下のように質問しました。
「通関実務に関しては過去問や問題集を解いたの?」
『ほとんど過去問は解いていません。勉強時間を作れなかったということもありますが、何回か問題を解いて「できるだろう」と思っていたからです。』
そう同僚が答えると、その上司は、こう答えました。
『それは「勉強不足」ではなく、無計画や知識不足からくる「過信」が原因かもしれないよ。』
さらに、それに続けてこのように言いました。
『「関税法等」を6割取れたと言うけれど、その知識を業務に関連付けれているのか心配だなぁ・・・。』
それ以降は上司が、同僚の業務の進捗状況や業務内容について理解できているか事細かに確認するようになったことを思い出します。
難解で時間のかかる「関税法等」を6割の合格ラインに乗せているので、そんなに責めるようなことをしなくても来年があるのにと思いましたが、
上司はその同僚に期待をかけていたので、そのような対応になったのかもしれません。
また、AEO制度の導入など、コンプライアンス(法令遵守)がよりいっそう重視される中で、いち早く知識をつけた上で実務に専念して欲しいと考えていたのかもしれません。
5.遭難しないためには
その同僚は前述の通り、法学部卒であり法律に対してアレルギーはなく、「関税法等」や「通関業法」に関しては、問題なく合格レベルまで学習を進めることができていたようです。
予備知識も勉強方法も確立している、いわばその道のアスリートだったはずなのです。
そんな基礎体力があるアスリートが遭難してしまうのです。
通関士試験で遭難しないためには、どのようにすればよいのでしょうか。
同僚が次年度、同じ失敗を繰り返さないために取った方法は、
「山岳ガイド」を雇うことでした。
2年目に受験する際には、それまでの独学のスタイルをやめて、客観的な計画と進捗管理ができ、必要な時に指導が受けられるように通信講座を取り入れて試験に臨んだそうです。
その結果、彼は合格することができました。
教材を買い換えるなら最新のものに切り替えるとともに、くよくよと悩まずに
潔く自分のスタイルを変えて挑んだ結果でした。
この切り替えの速さは、確立したスタイルで挑んでいたからとも言えます。
自分が決めた訳でもない曖昧なスタイルで勉強をしていれば、失敗したときに根底が揺らぐことになりかねません。
どこを修正していいかも分かりにくくなります。
同僚なりの確立した独学スタイルがあったからこそ、「通関実務」以外は合格ラインに達していたのです。
そして、何を修正すればいいのか、反省点を見出して、次年度には同じ失敗を繰り返さず、合格を果たしたのです。
これがスタイルが一貫している人の強みであると言えるかもしれません。
ぶれのないスタイルを追求している人は失敗しても、すぐに失敗の原因を分析して軌道修正をするのが早いのです。
そういう人は次年度も安心してみていられます。
逆に不合格になってからの同僚の態度を見て、立派だと感じた人も多かったのです。
この点は賞賛に値すると思って私も同僚を尊敬しています。
このように、不合格になったとしても、次の年に落ち込んでしまったり、投げやりになってしまわずにいられるためには、やはり自分にあったスタイルを自分で選択するということが大切だと思います。
6.それぞれにあったスタイルを選ぶ必要がある
登山と同じで、「セオリーを知っておく」ということは必要不可欠なことです。
しかし、それだけでは不十分だと思います。
置かれた状況や個性を考慮に入れた
「自分の個性と状況に応じたスタイル」
で試験に挑むことが重要であると思います。
例えば、勉強時間をどのぐらい取れるかといった時間的な側面からみた状況や、
教材や勉強方法への向き・不向きといった側面からみた個性などを客観的に考慮して、
「自分の個性と状況に最も適した教材と勉強方法を用いた学習スタイル」
を客観的にあなた自身が判断して選択することが重要だと思います。
そういった決断を下す上で、経験者の意見を参考にしたりすることも重要ですが、それが信頼のおけるものなのか精査する必要があると思います。
自分が決めた訳でもない曖昧なスタイルではなく、失敗したときにも根底が揺らぐことのない確立した学習スタイルを見出して、受験勉強のスタートを切れるようにしましょう。
以下の記事では、あなた自身が今の状況や自分の個性をアセスメント(査定)して、あなただけの学習スタイルを確立できるように考えて書いてみました。
参考になればと思います。
参考文献:「生き残った人の7つの習慣」(著者:小西浩文)
参考資料:「山で遭難する理由」BC穂高(製作:大田毅彦)