通関士試験の「難易度」について2021年度の試験結果をもとに考察してみました。
目次
科目免除と合格率の関係
まずは、今年度の合格率とその内訳について以下の表をご覧ください。
今年度(第55回)試験の結果はマゼンタ色で囲んであります。
最上段の赤色のアンダーライン部分は全科目受験者のデータです。
マゼンタ色で囲んだ部分を見ると、今年度の全科目受験者の合格率は14.9%です。
前年度と比べて微増といったところでしょうか。
全科目受験者とは、「通関実務」「関税法等」「通関業法」の3科目全てを受験された方のことを指します。
次に、緑色のアンダーライン部分は2科目受験者のデータです。
マゼンタ色で囲んだ部分を見ると、今年度の2科目受験者の合格率は10.6%です。
昨年度と比べて半減しています。
2科目受験者とは、科目免除により「通関実務」が免除され
「関税法等」と「通関業法」の2科目だけを受験された方のことを指します。
そして、青色アンダーライン部分は1科目受験者のデータです。
マゼンタ色で囲んだ部分を見ると、今年度の1科目受験者の合格率は、59.1%となっています。
昨年度と比べて約15%ダウンしています。
1科目受験者とは、科目免除により「通関実務」と「関税法等」が免除され
「通関業法」のみを受験された方のことを指します。
最後に、黄色アンダーライン部分は全体の受験者のデータとなります。
マゼンタ色で囲んだ部分を見ると、今年度の全体の合格率は、15.7%となります。
この全体の合格率は科目免除者の数字を含んでいるので、全科目受験者の数値よりも少し高い数字となっています。
これは、「通関実務」という最難関科目、および「関税法等」というボリュームのある科目を免除された方の数字を含んでいるということです。
ここで、もう一度さきほどの表を見てみます。
ここで、赤色のアンダーライン部分の合格率14.9%と緑色のアンダーライン部分の合格率10.6%を比較してみます。
これは、全科目受験者(赤アンダーライン部分)と「通関実務」が免除された2科目受験者(緑アンダーライン部分)の合格率の比較となります。
あまり差異はないように感じますか?
前年度の数字を見てみると「通関実務」が免除されている2科目受験者の合格率が半減しています。
これらの数字だけを元に試験対策を練る方はいないとは思いますが、念のためにお伝えしておきます。
このデータをもとにして、
「通関実務」が免除されてもそれほど合否には影響はがなく、
「関税法等」がこの試験の最難関科目ではないか
と判断すると大きな誤算となる場合があります。
これから受験される方は、ご自分で確認することになると思いますが、
核心部(最難関部分)は「関税法等」ではなく、
「通関実務」だと言い切れます。
確かに「関税法等」は難しい科目です。
法令をきっちりと読み込んで理解しておく必要があり、
特有のひっかけも多くちりばめられています。
そして覚えなければならないことに関しては最もボリュームがある科目と言えます。
しかし、単純に覚えるという勉強時間を作ることは比較的容易なことなのです。
これは、対策に割く時間を捻出し易いということを言っているのであって、「関税法等」が簡単な科目だと言っているのではありません。
「関税法等」と「通関実務」の対策は性質が異なります。
詳しくは別記事に書いていますが、
簡単に言うと、歴史と数学との違いです。
このことを意識せずに初めからテキストを読み進めながら勉強に取り掛かると後で後悔させられる確率が高いでしょう。
これは、仕事や家事、育児に追われる社会人にとっては特に重要なことになってきます。
最難関科目は「通関実務」であるということを認識することが、通関士試験合格においての鍵となります。
このことについて詳しくは、以下の記事をお読みください。
ちなみに、「2.合格基準」を見てみると全科目とも満点の60%以上となっています。
合格基準はその年の出題の難易度が高く、例年と比べてあまりにも解答率が低い場合には引き下げられる場合があります。
今年はそういった措置はなかったということです。
単純に読み取ると試験問題の難易度自体は「普通」だったということです。
にも関わらず、
なぜ最難関科目である「通関実務」を免除されている2科目受験者の合格率が前年度に比べて半減しているのでしょうか?
あなたはどのように分析されますか?
それは、科目免除と人間の特性および業界の特製が関係していると考えることが出来ると思います。
税関が実施している講習に参加すれば、通関士試験に合格していなくても、通関業務に携わることは可能です。
このため通関士試験に合格していなくても通関業務を卒なくこなすプロもたくさんいます。
そんな状況の中で、
もしあなたが、『5年間通関に関わる仕事をしていれば、最難関科目である「通関実務」を免除する』と言われれば、どうしますか?
日々忙しい業務や家事・育児に忙殺される中で、そんなことを言われたらどう思われますか?
『15年間通関に関わる仕事をしていれば上述の「関税法等」も免除する』と言われれば、どうしますか?
不必要な勉強に時間を割く必要がないと判断して実務一筋に生きていくという道もひとつの選択肢であると考えますか?
初めから科目免除を念頭に置いて合格を目指すことには何の問題もありません。
激務に追われながら、通関士試験も必死で取り組んでバーンアウトして辞職されるぐらいなら科目免除を念頭に置いて実務に専念し、定着してくれれば良いと考えている企業もあるかもしれません。
こういったことから、科目免除を受けても合格率が低迷していると言えるのではないでしょうか。
しかし、そんな科目免除がいつまでも存在するとは限りません。
あらゆる制度や法令はその時々の状況に応じて変化していくものです。
転職や就職を控えて受験される方には合格して資格を取ることが至上命題のため科目免除は関係のないことかもしれませんが、ご興味のある方は以下の考察記事をご覧ください。
まとめ
結局、試験結果について分析して言えることは、以下のようなことです。
合格率だけを見ると「関税法等」が最も難易度が高い科目のように見えるかもしれません。
しかし、通関士試験で攻略が難しく難易度が最も高い科目は「通関実務」です。
そのため、「通関実務」の対策時間をいかに捻出できるかが非常に重要となります。
受験すると決めたならば、いち早く「通関実務」の問題に取り組むことが重要です。
そして、科目免除については以下のようなことが言えるでしょう。
まず、科目免除など当てにしていつまでも合格できずにいると、時間と経費を無駄にすることになります。
さらに、そのうち科目免除という制度がなくなって、結局は試験勉強に励まなければならない時が来るかもしれません。
したがって、科目免除のことは頭の外に追いやって、いち早く通関士試験に合格できるように勉強に集中すべきだと思います。
全科目(3科目)受験で合格することは合格率から見ても明らかなように、決して容易であるとは言えません。
しかし、もし合格できれば周囲の方々(同僚・上司・税関職員)は、あなたの情報分析能力・情報処理能力が高いと評価してくれるはずです。
この辺のことを念頭に置いて勉強に取り組んでいきましょう。
合格していれば、メリットもたくさんあるということを意識して、短期間で集中して取り組むようにしましょう。
以下の記事を読んでそのメリットについて確認してみてください。
ちなみに独学で一発合格するためには、
セオリーを知り、自分に合った勉強方法で臨むことが最も重要です。
セオリーをきちんと踏まえて、独学で短期一発合格できるための学習をスタートするに当たって、以下の記事が参考になればと思います。