通関士試験の実務試験である「通関実務」には計算問題が出題されます。
計算問題で、
「電卓を叩く回数」や「数字を転記する回数」が増えると、
これに比例して、ケアレスミスが発生する確率が上昇します。
今回は、計算に関するケアレスミス対策について書いてみます。
目次
1.ミスを減らすには?
2.電卓を押す回数
3.計算頻度を減らす方法
4.少額判断基準価格の算出方法
5.まとめ
1.ミスを減らすには?
ミスを減らすためには、どのような対策をすれば良いでしょうか?
ミスの原因となる要因で減らせるものは、どんどん減らしていけばいいのではないでしょうか?
例えば、
通関士試験の計算問題を、
「ミスなく」
「大量に」
「効率よく」
日々の業務でこなすように命じられた場合!どのように処理していきますか?
電卓を叩いて、処理していくのは大変ですよね?
効率よく、正確かつ大量にこなすにはどうしたらよいでしょうか?
例えば、
エクセルの関数計算を使うというのは、どうでしょうか?
数字だけを入力すれば、勝手に計算できるようにしてしまうという方法です。
「ミスをする要因である計算」そのものを無くしてしまうのです。
そして、入力というミスの原因もなくすために、
入力する数字も、できればコピー&ペーストで済ませられるようにできたら楽ですよね。
嫌がらせのような紙ベースの場合は、スキャナーで読み取らせて、
OCR(光学的文字認識)ソフトで数字を読み取りさせれば、
コピー&ペーストするだけで済みます。
これで、入力というミスをする要因も無くし、手間も減らせました。
後は、OCRソフトが読み取った数字が合っているか、
エクセルシートにきちんとコピー&ペーストできているか確認すればいいだけです。
この時に、確認のために電卓を叩くことはあるかもしれませんが、
(エクセル関数の計算間違いはないと思いますが・・・)
それは質を保証するための「確認作業」です。
「ミスする要因」を減らすことは、時間的な余裕を生み、
「確認作業」に使える時間と余力を作り出します。
結果としてクオリティの高い仕事を大量にこなせるようになるのではないでしょうか。
残念ながら通関士試験は普通の電卓で計算しなければならないので、エクセル関数など使えないのですが、
ミスの要因になる計算の回数が減らせるならば、
ミスの要因も減らした上に、計算にかかる時間も短縮できることになりますね。
そうすると「確認作業」に使える時間と余力を創出できます。
適度な緊張感を維持しつつも、時間的な余裕があることが、ケアレスミスを低減させるとも言われていますよね。
2.電卓を押す回数
問題の中で、電卓をどれだけ押しているのか、実際に数えてみましょう。
通関士試験の計算でややこしいのが「少額品目の合算」というものではないでしょうか?
復習も兼ねて「少額品目の合算」を例に調べてみましょう。
20万円以下の品目を一括合算して、まとめて申告するというものです。
日本円で20万円というのが、厄介です。
仕入書(インボイス)の価格は、ドル建ての価格です。
ですから、これにいちいち為替レートを掛け合わさなければなりません。
例えば、次のようなA、B、Cという3つの貨物があったとします。
(本試験では5品目以上はあります)
B:FOB価格 1,800ドル
C:FOB価格 1,900ドル
為替レートが1ドル=108.20円だったとします。
この金額が20万円を超えているか否かを求めようとすると、
A:FOB価格 1,700ドル × 108.20円 = 183,940円
B:FOB価格 1,800ドル × 108.20円 = 194,760円
C:FOB価格 1,900ドル × 108.20円 = 205,580円
という計算をします。
20万円以下の貨物は、AとBだと分かったので、それを合算するということになります。
この工程を全てばらばらにしてみると、
1 7 0 0 × 1 0 8 . 2 0 =
合計12回電卓のボタンを押しています。
これが3品目分ですので、12回×3回=36回
たったの3品目で、36回電卓のボタンを押しています。
(ちなみに「00」ボタン付の電卓だと33回ですね)
ただ、これだけなら別にどうと言うことはないのですが、
この為替レートを掛け合わせるときの仕入書価格は、
輸出の場合は、FOB価格というものになります。
しかし、たいていの問題に出てくる仕入書価格は、
CIF価格とかC&F価格
というものであったりします。
FOB価格に、いろいろと価値が加わった価格となっているのです。
そうすると、FOB価格を求めるために、余計な計算をする必要が出てきます。
例えば、次のようなE、F、Gという3つの貨物があったとします。
F:CIF価格 1,800ドル
G:CIF価格 1,900ドル
為替レートが1ドル=108.20円だったとします。
「この価格にはFOB価格の10%に相当する海上運賃と保険料が加算されている」
という但し書きがあった場合、
この金額が20万円を超えているか否かを求めようとすると、
E:CIF価格 1,700ドル ÷ 1.1 × 108.20円 = 167,218円
F:CIF価格 1,800ドル ÷ 1.1 × 108.20円 = 177,054円
G:CIF価格 1,900ドル ÷ 1.1 × 108.20円 = 186,890円
という計算をすることになります。
この工程を全てばらばらにしてみると、
1 7 0 0 ÷ 1 . 1 × 1 0 8 . 2 0 =
合計16回電卓のボタンを押しています。
これが3品目分ですので、16回×3回=48回
たったの3品目で、48回電卓のボタンを押しています。
(ちなみに「00」ボタン付の電卓だと45回ですね)
貨物がたった3品目でも、45回以上も電卓を押すことになります。
本試験では5品目以上はあります。
全ての貨物のFOB価格を円貨で求めると100回程度電卓を叩くので、
大変疲れるだけでなく、ミスをする可能性も出てきます。
そして、出た値を比較するために、すべて転記するはずです。
転記ミスも起こり得ます。
ちなみに先ほどのCIF価格からFOB価格を求める式を少し詳しく書くと以下のようになります。
↓こういった加算要素がさらに複合してくると大変です。
CIF価格=FOB価格 +(FOB価格×10%)
CIF=FOB +(FOB×0.1)
CIF=FOB(1+0.1)
FOB=CIF ÷(1+0.1)
ということで、
CIF価格がFOB価格にX%を乗じているという時は、以下のようになります。
FOB価格=CIF価格÷(1+X/100)
3.計算頻度を減らす方法
ここで、上記のような計算回数を減らす方法をご紹介します。
「少額判断基準価格」です。
為替レートをもとにして、20万円が何ドルかを先に調べる方法です。
問題集を解いておられる方はご存知の方も多いはずです。
通関士ポータルの過去問解説にも載っています。
つまり、公益財団法人日本関税協会の御墨付きということです。
基本的には、間違いなく使うべきです。
「少額判断基準価格」
これを使うのが嫌だと感じる方が毎年おられると、聴いたことがあります。
この「少額判断基準価格」を自分で算出して誤りがあった場合に、
取り返しがつかなくなるというような理由でしょうか?
これを覚えるのが面倒で、逆にミスに繋がると感じているのでしょうか?
もしそう思われているなら、次のようなことを考えてみてください。
「円貨建てで、数字の桁数が多くなっている価格」
しかも「転記された数字」
これらを合算する行為は、
「時間的なロス」と「ミス要因」を増加させるといってもよいのではないでしょうか?
上述した「電卓を押す回数」を「ミスを増やす回数」と置き換えて考えてみるといいと思います。
「電卓を何回も押す(=ミス要因を増やす)」
「結果を転記する(=転記ミス要因を増やす)」
「少額判断基準価格」を使うべきか否か、
もう一度考えてみる方が良いと思います。
余計な計算をしないで済めば、加算要素を精査する時間的な余裕を作ることができます。
きちんと加算要素を把握して、少額判断基準価格も含めて「間違っていないか」見直しをする時間を作るほうが有益だと思います。
とは言うものの、やはり少額判断基準価格を求めることすら面倒だし、ミス要因、リスク要因だと捉える方もおられますよね。
そういう方は、こちらをご覧ください。
4.少額判断基準価格の算出方法
算出の方法としては、以下のようになります。
要は、為替レートをもとにして、20万円が何ドルかを先に調べるのです。
先ほどの例を出して考えると、以下のようになります。
例えば、A、B、Cという3つの貨物があったとします。
B:FOB価格 1,800ドル
C:FOB価格 1,900ドル
為替レートが1ドル=108.20円だったとします。
この金額が20万円を超えているか否かを求めようとするときに、
20万円が何ドルかを先に調べるのです。
20万円÷108.20(適用為替レート)
=1,848.42883548ドル
≒1,848ドル
この1,848ドルを基準に上記貨物を見ていくと、
20万円以下の貨物は、AとBだと分かったので、それを合算するということになります。
この少額判断基準価格を調べる工程を全てばらばらにしてみると、
2 0 0 0 0 0 ÷ 1 0 8 . 2 0 =
合計14回電卓のボタンを押しています。
(ちなみに「00」ボタン付の電卓だと12回ですね)
それで終了です。
これを、ドル建て価格に為替レートをいちいち掛けていった例と比較してみましょう。
1 7 0 0 × 1 0 8 . 2 0 =
合計12回電卓のボタンを押しています。
これが3品目分であると、12回×3回=36回
3品目で、36回電卓のボタンを押すことになります。
本試験では5品目以上はあります。
そして、出た値を比較するために、すべて転記するはずです。
そこで転記ミスの可能性も出てきます。
これに比べると「少額判断基準価格」を利用すると、
1/3の労力で済んでいます。
そして品目が増えれば増えるほど、時間と労力が節約できます。
FOB価格ならまだ簡単ですが、
CIF価格で、加算要素がある場合を考えてみてください。
もっと多くの時間を奪われます。
本試験では心配になって何回も計算チェックをするかもしれません。その場合は奪われる時間はさらに長くなります。
5.まとめ
ミスの要因となる行動の回数を減らせるならば、
ミスの要因も減らした上に、時間も節約できることになります。
ミスの要因となるものを無くせるならば、なくしてしまった方が良いですね。
無駄な確認作業や無駄な転記も無くすことができます。
本当に必要な「確認作業」に使える時間と余力を創出できるようにしていきたいですね。
余談になりますが、医療業界では、「人は誰でも間違える」ことを前提に、ルール作り、マニュアル作り、ミスをしないための研修、具体的な措置などをチーム全体で取り組むようにしているそうです。
ケアレスミスを防ぐための策をチームで情報共有するのです。
通関士試験において、そうした情報共有の一助になればと思います。
ちなみに、医療器具に関しては「ミスが起こりにくい器具を選択する」ということが重要だそうです。
電卓選びも重要ですね。
問題をこなす上で相当叩いていると思うので、本試験までに壊れないぐらいの耐用性のあるきちんとした電卓を選びましょう。
(↓こういう大きなタイプが使いやすくていいですね。「00」がついていて、クリアも左下で押しやすいタイプですね。価格は2,000円弱です。)
ケアレスミスについては、以下の記事にまとめてみました。