通関士試験で必要な貿易専門用語について書いてみたいと思います。
これが理解できていないと「通関実務」という実務科目が解けません。
絶対に必要な知識と言えます。
今回は、
通関士試験で特に重要な
インコタームズの貿易条件であるFOBとCIFについて説明しています。
インコタームズについては、以下の記事をご覧ください。
通関士試験に必要な専門用語の基礎知識(インコタームズの概要)
目次
1.通関士試験で問われるもの
2.FOBとCIF
3.現実支払価格
4.まとめ
1.通関士試験で問われるもの
インコタームズの貿易条件は、2010年度版では11種類あります。
通関士試験の問題を過去10年間(2009年~2018年)に遡って見ると、
11種類のうち8種類が出題されています。
(ちなみに2009年の試験はインコタームズ2010年度版と定義が変わらない貿易条件が出題されているので、カウントに入れています)
インコタームズは、貿易業界でプロとして仕事をする上では「常識」として知っておくべきだと言うことは前回記事でも書いた通りです。
しかし、通関士試験では、今のところ、全11種類の貿易条件を完全理解する必要はありません。
その辺は、お手元にある有名なテキストをご覧になっても分かると思います。
ただ、2種類(FOB、CIF)の貿易条件に関しては、理解しておかなければ問題を解くことができないということは、以下の記事でお伝えした通りです。
通関士試験に必要な専門用語の基礎知識(インコタームズの概要)
しかし、通関士試験では、過去10年間で11種類の貿易条件うち8種類が出題されていますが、参考書ではいっさい触れられていないものがあります。
これは、2種類(FOB、CIF)について理解しておけば、他の貿易条件については、
「問題を解きながら理解していくことが可能である。」
ということです。
そして、インコタームズの貿易条件について、
「費用負担の範囲」については、理解しておく必要がありますが、
「危険負担の範囲」については、今のところ(2019年9月現在)は知らなくても良いと言えます。
(ちなみに、前回記事に「なぜこの2つ(FOBとCIF)だけ理解する必要があるのか」「なぜ危険負担については知らなくても良いと言えるのか」については書いてあります)
以上のようなことを踏まえながら、通関士試験で最も重要とも言える、インコタームズのFOBとCIFについて説明していきます。
2.FOBとCIF
通関士試験では、
FOBとCIFがどのような要素で構成されているか、きちんと分析して理解しておかないと解けない問題が出題されます。
しかもその要素は「費用」に限定されます。
これらが理解できれば、通関士試験合格への道が見えてきます。
FOB
まずは、難しい言葉の定義は抜きにして、FOB価格について簡単に説明してみます。
貨物が工場から出荷されて、船に載せられるまでをイメージしてみると良いと思います。
(コンテナ船以外にも、自動車を積み込む船や穀物や鉱石をバラ積みする船もありますが、とりあえずはコンテナ船で考えてみます)
輸出できるように貨物が検査や梱包され、
出荷され、
港に運ばれ、
輸出通関手続きを経て、
船に載せられます。
上記の過程でかかるすべての費用を合計したものが、FOB価格となります。
「貨物自体の価格」
「検査・梱包等諸費用」
「港までの輸送費」
「輸出通関諸費用」
「船に乗せるまでの諸費用(船積みのために貨物を動かす費用)」
以上のような「輸出港にある外国貿易船に積み込むまでの全ての費用」が計上されることになります。
では、FOBという言葉について、説明していきます。
FOBとは「Free On Board」の略です。
「本船甲板渡し条件(ほんせんかんぱんわたしじょうけん)」と呼ばれます。
『「貨物が船の甲板に載せられるまで」の費用と責任を売り手が持つ条件』ということです。
別の言い方をすると、
「船の甲板(船内)に置かれるまでの危険負担および費用負担」
を売り手(輸出者)がすると言うことです。
「free」とは「免れる、解放される」という意味を持つ英単語です。
「on board」とは「船内に」という意味です。
上の写真のようにクレーンで貨物が「on board(船内甲板にon)」された時に、
売り手は危険負担責任から「free」になり、
その責任は、買い手に移ります。
FOB価格は輸出申告の際に必要となります。
通関士試験で求められる知識としては、
この輸出申告の際に必要となる
「FOB価格がいくらになるか」ということです。
では、FOB価格とはどのような価格なのか?
それは、さきほど説明したような、
「輸出港にある外国貿易船に積み込むまでの全ての費用」となります。
ただし「貨物の価格」に関しては後述の「現実支払価格」を考慮する必要があります。
CIF
次にCIFについても簡単に説明します。
CIFは「Cost, Insurance and Freight」の略です。
「海上運賃・保険料込み条件」と呼ばれます。
CIFの、
「Cost」は「貨物の価格」
「Insurance」は「海上保険料」
「Freight」は「海上運賃」
のことです。
CIF価格は輸入申告の際に必要となります。
通関士試験で求められる知識としては、この輸入申告の際に必要となる「CIF価格がいくらになるか」ということです。
それは、「FOB価格に加えて、輸入港までの海上運賃と海上保険料が加算された価格」であると言えます。
貨物が工場から出荷されて、船に載せられるまでのイメージは上述のFOBと同じです。
これに輸入港までの海上運賃と海上保険料が加わるということです。
輸出できるように貨物が検査や梱包され、
出荷され、
港に運ばれ、
輸出通関手続きを経て、
船に載せられます。
上記の過程でかかるすべての費用を合計したものが、FOB価格となります。
CIF価格はこれに、輸入港までの海上運賃と海上保険料が加算されます。
輸入港までの海上運賃が支払われ、
海上保険料も加算されます。
上記の過程でかかるすべての費用を合計したものが、CIF価格となります。
「貨物自体の価格」
「検査・梱包等諸費用」
「港までの輸送費」
「輸出通関費用」
「船に乗せるまでの諸費用(船積みのために貨物を動かす費用)」
上記の合計がFOB価格
これにCIF価格では以下の費用が加わります。
「輸入港までの海上運賃」
「海上保険料」
以上のようになります。
ただし、FOB価格と同様に「貨物の価格」に関しては後述の「現実支払価格」を考慮する必要があります。
3.現実支払価格
インコタームズは「国際貿易条件基準」であり、輸送上の費用分担範囲と責任分担範囲を取り決めただけのものです。
売り手(輸出者)と買い手(輸入者)の間で取り決めた「貨物の価格」に関することにまで言及していません。
さきほど、
『CIFの、「Cost」は「貨物の価格」』として紹介しましたが、
例えば、INVOICEに、
「CIF TOKYO US$ 1,000.00」と書かれていても、この「貨物の価格」が輸入申告価格として、そのまま使えるとは限りません。
実は、この貨物に関する特許権使用料が「US$1,000.00」発生し、買い手は、売り手に対してその特許使用料を支払うことになっているならば、現実支払価格として「CIF TOKYO US$ 2,000.00」として輸入申告しなければならないのです。
つまり、貨物の価格に関しては、輸入申告に使える「現実支払価格」かどうか分析する必要があります。
この分析ができるようになるためには、加算要素・非加算要素(控除費用)について別に知っておく必要があります。
簡単に説明すると以下のようになります。
「輸入港到着までに買い手が負担する費用」は加算要素
(例)「輸入取引で買い手が負担する仲介料」や「値引き」など
「輸入港到着後、または輸入申告日以後の費用」は非加算要素(控除費用)
(例)「輸入港到着後の国内運賃や保険料」「申告日以後に行われる輸入貨物の据付け・組み立て・整備・技術指導に要する費用」など
今回の記事の流れでは、インコタームズに的を絞って書いていますので、「現実支払価格」に関しては、以上のような簡単な説明に留めますが、FOBとCIFなどのインコタームズの知識のみでは解答できない場合があることを知っておく必要があります。
4.まとめ
「現実支払価格」も加わると、ちょっとややこしいですが、以下のように考えていけばいいと思います。
「いろいろな部品(価格)が余分に付けられている自動車」
「足りない部品(価格)がある自動車」
それらを見分けて、組み立て直して、「FOB仕様もしくはCIF仕様の自動車にする」と言った作業をすれば良いだけ。
最初の頃は、いろいろな要素(価格)がごちゃ混ぜにされて、見分けもつかなくなった化学物質のように感じるかもしれません。
ごちゃ混ぜにされた科学物質から「純度100%混じり気なしのFOBもしくはCIFを精製せよ」と言われているような気分になるかもしれません。
しかし、コツコツと勉強して分解作業を進めていけば、それほど難しいとは思わなくなるはずです。
ただ、その作業が短時間で、間違いなくできるように慣れるためには、少し時間がかかるかもしれません。
ですから、通関実務には早めに取り掛かる必要があるのです。
まずは、インコタームズという「国際的な貿易条件の基準」があるということ。
通関士試験では、それらの費用負担が重要になるということ。
輸出申告で必要なFOB価格と、輸入申告で必要なCIF価格は絶対におさえておかなければならないということ。
FOBやCIFの貨物の価格は「現実支払価格」かどうか分析する必要があるということ。
以上のことをとりあえず覚えておきましょう。
他のインコタームズの貿易条件については、問題を解きながら理解していくことも可能です。
むしろ通関士試験合格への近道としては、上記の「FOBとCIFの対策をきっちりとして、問題の数をこなすこと」が上策ではないかと思います。
ただ、まったく他の貿易条件について知らないのは不安だと思いますので、読み飛ばす程度の気持ちで関連記事を読んでみてください。
次の記事では、インコタームズの規則や貿易条件がどのように分類されているかについて書いてみようと思います。
まずは、それぞれの貿易条件がどのように分類されているか見てみると、理解しやすくなると思います。